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取り敢えず駅前から延びる一番大きな通りを進んでいくと、右手に小さな商店街があったが、殆どの店がシャッターを下ろしていて、人通りも全くといって良いほどない。通りを走る車も、まだ数えるほどしか見かけていないし、この町(村?)は本当に機能しているんだろうかと思ってしまう。
おまけに、一番広い通りを選んだはずが、その通りも気付けば一車線で歩道すらない道幅になっていて、昔ながらの家屋が並ぶ住宅地になり、更に進むと田畑の広がる農道に辿り着いてしまった。
まだ田植え前の茶色い田んぼを見渡して、麒麟は「嘘だろ……」と思わず独り言ちる。
田んぼ沿いの道をゆっくりと進みながら改めて辺りを見渡してみるが、この先にはとても宿や店なんてありそうにない。かなり先に、古びた鳥居とその奥に延びる石段が見えるくらいだ。
「……神社って、頼めば泊めてくれたりすんのかな」
最悪今夜の宿が見つからなければ、泣きついてみるしかないと思いながら、麒麟が一先ず神社の方へ足を進めようとしたとき。農道から、山手の方へと逸れる舗装もされていない細い道に、真新しいタイヤ痕が付いているのが目に留まった。くっきりと残った二本の轍を目で追ってみるが、坂道はかなり先まで続いているようで、その行き着く先までは確認出来ない。
……もしかしたら、山手に上がればペンション的な施設の一つや二つ、あるかも知れない。
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