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車が停まっているということは誰か人が居るのだろうが、そう広そうにも見えないし、さすがにここには泊めて貰えそうにないかも知れない。そう思ったが、これだけ延々と坂道を上がってきたのに、このまますんなり引き返すのも何だか癪で、麒麟は取り敢えず駄目元で小屋の主に声を掛けてみることにした。
泊めては貰えなくても、もしかしたら何処か宿を紹介して貰えるかも知れない。
なかなかの急勾配を登ってどうにか小屋の前まで辿り着く。遠目に見ると小さく見えたが、こうして目の前まで来ると、さっきまでは勾配で見えなかっただけのようで、小屋にはそこそこ奥行きがあり、思ったよりも広そうだった。
ここは住居なんだろうか。それとも、林業か何かの作業小屋なんだろうか。
そんなことを考えながら、麒麟は呼び鈴のない木のドアを控えめに叩いた。
「あの……! すいません……!」
ドアの前で声を張ってみたが、返事はない。
けれど、耳を澄ませると小屋の中から何やら微かな物音がして、確かに人の気配がする。
もう一度声を掛けてみようかと、麒麟がドアを叩く為に拳を振り上げたときだった。
「悪ぃ、今手が離せねぇ。鍵開いてるから、入ってきてくれ」
小屋の中から男性の低い声が返ってきて、麒麟は中途半端に振り上げていた手を慌てて下ろした。
電車を降りてからずっと老人の姿しか見かけていなかったが、声を聞く限り、中に居る人物はそう年配ではなさそうだ。
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