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しかもよくわからないけれど人が殺せそうな長い何かを手に持っていたし、もしかしたら一番叩いてはいけない扉を叩いてしまったかも知れない。
おまけに咄嗟にドアを閉めてしまったし、言葉通り、本当に失礼してしまった。
ドアの向こうで見た予想外の光景に動揺したのと、自身の行動への後悔に、ドアへ背をつけたままズルズルと座り込んで自己嫌悪に陥る麒麟の背後で、不意にギイッ、と大きくドアが開いた。
「う、わ……っ!」
突然凭れる場所を失った身体が大きく後ろに傾いで、麒麟はボストンバッグを抱えたまま、ドサリと仰向けにひっくり返った。そんな麒麟の上に、ゴーグルを首に引っ掛けた『熊』がニュッと現れて、思わず麒麟は声にならない悲鳴を上げ、しがみつくようにバッグを抱え込む。
「ハハッ、悪ぃ悪ぃ。まさか凭れてるとは思わなくてな。大丈夫か?」
すっかり怯えた様子の麒麟を見下ろして豪快に笑った『熊』は、そう言って逞しい手を差し出してきた。
「だ……大丈夫です。こっちこそ、突然すいません」
躊躇いがちにその手を握り返した瞬間、目の前の『熊』は一瞬目を見開いた。
「お前……Ωか?」
相手の腕に引かれるまま上半身を起こした麒麟は、問い掛けにギクリと身を竦ませた。
まだ発情期を迎えていない麒麟は、α以外にΩであることを見抜かれたことはない。ということはまさか……。
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