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熊谷の居ないところで勝手に過去を探ったと誤解されないように慌てて付け加えた麒麟に、熊谷は「別に怒ってねぇから気にするな」と笑った。
「俺はお前の生い立ち聞いてんのに、俺だけ黙ってるのも、確かにフェアじゃねぇよな」
言いながら、熊谷が麒麟の手を引いてそのままリビングのソファへと促す。熊谷が先に腰を下ろし、隣に座れ、と言うように空席をポンポンと叩いて示されて、麒麟は遠慮がちに熊谷の横に座った。
「取り敢えず、お前にも『彼』のことは話しておく」
彼、という単語に、麒麟は思わず膝の上で両手を握った。
……熊谷さんが、大事に想っていた人。
一体どんな人なんだろうと固唾を飲む麒麟の横で、熊谷は淡々と語り始めた。
「まず、月村の言ってたことは本当だ。四年前の春先……丁度今頃だったな。俺の好きだった相手が、亡くなった────」
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