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最後に見た勇者様は怪我はしていなかったはず。だから僕が飛び出した甲斐は十分にあった。
「このバカヤロウがっ」
また怒られた!
僕はただ勇者様の無事を――、と思った瞬間、唐突に裸な勇者様が裸な僕を抱きしめた。裸のお付き合い。夢でも直に人肌が触れると温かいんだな、と余りの事に僕は現実逃避した。夢なのに現実逃避とはこれ如何に。
「…ちがう、そうじゃない」
そうひとり呟くように言って、その勇者様の幻影は僕をギュっと強く抱きしめなおして、耳元で小さく、
「………サンキュ、な」
と囁いた。
サンキュ、又はサンキュー。
勇者辞典の中でも頻用されるその言葉の意味は確か――『ありがとう』。
本物の勇者様もそう思ってくれていたらいいな。
数十秒か、そのぐらいそのままじっとしていた。勇者様の体温が伝わってくる。僕が感じていた温かさは勇者様の体温だったんだ。
なにか、よくわからない感情が心の中で渦巻いた。それは負の感情ではなくて、とっても心地いいもの。それでいて、どうしてか胸が締め付けられて、目頭が熱くなる。
「勇者、様…」
「魔王がいないからもう勇者じゃねぇし、いい加減その呼び方やめろよ」
「…え、っと…ハヤト、サマ?」
「ん、」
勇者様、いや、ハヤト様は『余は満足じゃ』とでも言うように頷いた。
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