インク瓶の底に眠る

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真夜中のことだった。 目蓋を撫でる月の光で目が覚めた。 束の間、月を眺めた。煌々とした輝きにすっかり頭が冴えて、もう眠れそうもない。 ベッドを抜け出すとキッチンへと向かった。 お茶を待つ間、甘い香りに包まれて思い巡らせる。 部屋に戻り熱い紅茶を飲みながら、読みかけの本の続きを開いた。 入口に立っているのに中には入れない。文字が滑ってゆく。白い紙が壁のように立ちはだかる。 諦めて本を閉じ、ついでに目も閉じた。 花と果実と香辛料。複雑な香りが暗闇に濃く漂う。
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