インク瓶の底に眠る

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「あの、物語が生まれる条件っていうのは、どんなことなんですか」 「残念ながら、それについてはお教えすることができないのです。というのも、なにぶん、一つ一つ性質が違いますから、ご自分で探していただくしか道がない。しかし、気を落とさないでください。あなたになら、きっとできますよ」 壁一面に取り付けられた棚にずらりと並ぶ中から、ラベルのない壜を取り出した。 「これを差し上げます。あなたには、とりわけこの色がよくお似合いです。そのかわり、どうか、せっかくの物語を孵してやってください。インクは壜の外に出て自由になって、誰かに読まれるのを待ちわびているのです」 「それは、どうやって取り出したらいいんでしょうか」 「簡単なことですよ」
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