インク瓶の底に眠る

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「壜の中で夜明けが始まったら、終いまで見届けて、そのインクで綴るだけ。既にそれはあなたの物語。そのままでなくてもよいのです。ペンとあなたの指先と、心のままに」 愛おしそうに差し出すのを受け取った。持ち重りのする、滑らかで冷たいガラス壜。 慌てて財布を取り出そうとすると、にこやかに首を振った。 「お代は要りません」 「でも、僕に、できるかどうか」 「ご心配には及びません。あなたはこの店の扉を開いた。ここを見つけたということは、物語には確かにあなたが必要だということです。ただし、物語は気まぐれです。すぐに始まるとは限らない。では、幸運を」
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