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(………。)
「純玲さん……?」
「もう……いいわ…。」
「え…?」
今度は純玲が押し倒す。
ここに来てサラッと立場が逆転していた。
「やっと、やっと分かったの。私は“先輩が”好きなんじゃない、“自分を好きな人だったら誰でも良かった”んだわ……。」
「…。」
覚は彼女の急な出来事に驚きを隠せないようだ。
「私の親は、兄ばっかり可愛がっていて自分を愛してくれなかった。私は友達や先生に悟られないように明るく振舞ったけど、どれだけ友達が居ようと、楽しいことがあろうと、私の心が満たされることは無かった。中学、高校と出て、大学に進学、その時にあの先輩と知り合ったの。こんな私でも、"普通の恋愛"ができると思ってた。」
彼女は急に過去を話し始めた。それはこれまで抑圧していた過去が、彼女の理性を決壊させた証拠であった。
「でも、それは違った!狂った私を愛せるのは同じく狂った他人だけ…!それが貴方なのよ。ようやく気が付いた!あぁ…理系なのにこんなことにすら気が付かないなんて、私って馬鹿みたい!アハハハハ!」
「純玲…さん…?」
覚は彼女の変貌ぶりに頭が追いついていない様子であった。
「アハハハハ…。はぁ…こんなに笑ったの何年ぶりかしら、いや、初めてかも……。ねぇ、私を愛してくれるんでしょ…?なら今すぐ愛して!ほら!」
「…。」
「どうしたの?キミの知ってる飯沢純玲はもう居ないのよ!?これが私、本当の私なの!それとも何?何されても僕の愛は変わらないというのは嘘だと言うの?」
「…。」
「…別にいいわ。」
「んっ……チュッ、んむっ…はぁ……」
人とはこんなにも変貌するものなのだろうか。
彼女は箍が外れたように彼への愛を貪り始めた、この部屋に在る2人の姿はまるで恋人同士のよう。
「私のことをストーカーするくらい好きなんだから、いまさら幻滅なんてしないわよね…?」
「もしも幻滅したとしても、逃がさないから…。ずっと一緒にいましょ?」
日付が変わる頃になっても、この2人が205号室から出てくることは無かった。
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