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オレは車内の気まずい雰囲気から逃れるように窓の外を眺めた。
いつの間にかビル郡の街並みから民家の町並みへ。
民家の町並みから田園地帯へ。
田園地帯から木々が乱立する自然の風景へ。
そして、のどかな自然から山深い森の中へ…
森の中…
ええーーーーーっ!!!
な、なんか、おどろおどろしい世界へ来たような感じだぞぉ。
こんな山ん中に、ホントに温泉旅館なんかあるのか???
人っ子一人いない木々の中の舗装されてない道を、不似合いな車が走り抜ける。
なんだかなぁ…って感じ?
まだ時間にしたら昼前だ。
なのに、鬱蒼と茂った大木のせいか、昼間でも辺りは薄暗い。
オレが世の中で一番怖いものは――
実はおばけだったりする。
ほら。
今にもそこらの木の陰から幽霊が顔でも覗かせて…
「ヒッ!!!」
オレは固まった。
「どうしたんだ、克巳?変な声出して。…お前、顔が真っ青だぞ」
タケルが心配して声をかけてくれるが、オレは、オレは――
…見ちまった。
「い、今そこに、ゆ、幽霊が…!!!」
オレは震える指で、ある一本の大木を指し、震える声で言葉を絞り出した。
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