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一方――
こちらは克巳の部屋とは少し離れた、タケルと高支那の部屋――幻の間。
静まり返った室内に不意に高支那の声が響く。
「鬼頭」
呼ばれて、畳の上に座っていたタケルはスッと顔を上げた。
高支那は深い緑が広がる大きな窓の外を、籐の椅子に腰掛け見つめていた。
こちらに顔を向けることなく、続けて言う。
「ここでは一人になるな」
それはタケルにとって、なんとも不可解な言葉だった。
タケルは一瞬怪訝な顔をする。
一体どういう意味なのか、その真意を計りかねているようだった。
「どういう意味だよ」
タケルが問いかけると、高支那はその時初めてタケルの方に向き直った。
そしてもう一度、改めて口にするのだった。
「ここでは絶対一人きりになるな。いいな」
高支那の顔は怖いぐらい冷めていた。
普段の冷たさにさらに輪をかけた感じだ。
高支那は真っ直ぐタケルを見つめ…
その視線に思わず目を逸らしてしまうタケル。
――しばらくの沈黙。
気まずい空気が流れる中、高支那が突然立ち上がった。
タケルは反射的にビクッとする。
その時――
「タケルー!!!」
克巳がいきなり部屋に入って来た。
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