仮面男子、夏生くん

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 だけど、俺は平井さんに今まで一度だって素顔を見せたことはない。  素顔を隠したままで、そんな自分を好きになってもらえるわけがない。でも顔を晒すのももし何か言われたら、って思うと怖い。そんなことばかりをぐるぐると考える。  数日が経った頃。 「そしたら親父に、『お前もそんな顔してないで機嫌直せ』って言われてさ。そんな顔して、ってどの顔見て言ってんだよ! 俺、外から帰ってきたばっかでまだ仮面だぜ!? って言ってやったんだ。そのときの親父の、『そうだった!』みたいな顔ったらもう……」 「父ちゃん、エスパーすぎだろ!」  俺の周りにはいつものように人が集まり、俺に何か面白い話を期待する。話し始めると席に座ってこちらを見ていた平井さんも近付いてきて、一緒になって笑っていた。  ああ。今日も平井さんが俺の話で笑ってくれた。  楽しそうに声を上げて笑う顔を見られただけで、今日も一日頑張れそうな気がしてくる。
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