0人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
あれからずっと、俺はあのときの平井さんの笑顔が忘れられないでいる。
忘れるどころか日に日に平井さんのことを考える時間が増えていっていることに、俺自身が一番戸惑っているほど。
俺は平井さんのことが好き……なんだと思う。
朗読の順番が回ってきて、席を立って教科書を持ち、綺麗な、よく響く声で読み上げる平井さんの声に、目を閉じて耳を傾ける。
こういうとき、仮面をしていると周りにどんな表情をしているかバレないから助かる。
「あ、夏生くん。今帰るとこ?」
「平井さん。うん、ちょっと図書室寄ってた」
「じゃあ、一緒に帰ろうか」
あの日、犬を抱えたまま平井さんと屋根のあるところを探しているときに、平井さんの家が俺の家の近くだということが判明して、それからこんなふうにタイミングが合えば自然と一緒に帰るようになった。
最初のコメントを投稿しよう!