新しい一歩

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新しい一歩

── 「猫さん、猫さん」  数か月後、葵は再びあのバス停を訪れた。周囲に声をかけるが、あの白猫は現れない。 「……いらっしゃらないのかな」  葵は白猫と歩いた道を辿ってゆく。変わらない景色、ただ響く砂を踏む足音。すると、駅へと続く十字路から少し離れた道端に目が留まった。 「こんなところに祠が──」  ぽつんと小さくたたずむ古い祠の中を覗くと、葵はふふっと笑い、話し始める。 「──あれから色々考えて、もう少し私らしく生きてみることにしました。もちろん、節度を守って、ですけれど」  葵は賽銭として小銭と、お供えの鰹節を祠に置いた。 「先のことは分からないけれど、暫くこの道を歩いてみようと思います」  葵は膝についた砂を払い、立ち上がる。 「それにしても──」  葵は駅を背に一歩踏み出すと、最後に祠を振り返り 「意外と小さいんですね。猫さん」  と幸せそうに微笑んだ。そこには、小さな猫の像が眠っているように丸まっていた。
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