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気付き
──
「……猫さんいますか?」
1か月ほど経ったある日、葵はあの場所を再び訪れていた。
「おお、久しいな」
葵の声を聴いて、白猫が後ろから現れる。
「お久しぶりです」
「一月ぶりか?」
「それくらいになりますね」
葵はくたびれたスーツにやつれた顔で微笑むと、バス停の傍に腰を下ろした。
「なんの用だ?」
白猫が葵の横に座り問いかける。葵は
「とくに用事はありません。気分転換です」
とだけ答えると、どこか遠くを見つめていた。
「随分と疲れているようだな」
舌で毛繕いしながら白猫が尋ねる。葵は深いため息を吐くと
「最近仕事が忙しかったからですかね」
と悲しそうに笑った。仕事は上手くいかず、理不尽な責めに遭い、プライベートはないも同然という生活に、葵は疲れ切っていた。
「人間は大変だな」
白猫はケタケタと嘲笑に似た笑い声をあげる。
「猫さんは普段なにしてるんですか?」
葵が猫へ尋ねる。すると白猫は少し頭をひねると
「寝て起きて、偶にこうして戯れておるな」
と答えた。
「楽しそうですね」
葵は羨ましそうな眼差しを白猫へ向ける。しかし白猫は
「だが、悠久の時を過ごすのも大変なものだぞ」
と眉をひそめた。
「そういうものですか」
「そういうものだ」
とだけ1人と1匹が口にすると、辺りはそよぐ風の音だけになった。
「貴方のように時間が長いと、何でもできそうで悩みますね」
葵はうんうんと頷くと青空を見上げる。
「だが、お前の時間は短い。何を成すか考えた方がよいぞ」
白猫の言葉に驚き白猫のほうを見ると、白猫は真面目な瞳で葵を見つめていた。
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