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しかし、俺を欺くには少々、杜撰だ。
「すまない、これでも休暇中なんだ。仕事をする気はないから安心して帰ってくれ」
「え…な、なにをいってるのでしょうか?」
「だから、つまらない演技を止めてくれ、キャシー・ブライトン…いや、キャシー・ハイザワ・ブライトン」
俺の言葉に弾かれたように彼女…キャシーが身構える。安穏とした旅行者の顔つきから仕事用の顔つきに変わる。持っていたガイドブックを投げ捨て、背中へと手を伸ばした。
背中すなわち、俺の視線から外れた死角。そこに手を伸ばすということは十中八九、物騒なモノを構えようとしているのだろう。
「な、なんでバレたのよ」
白い肌にうっすらと浮かび上がる汗。さきほどまでのカタコトだった日本語は鳴りを潜め明らかにネイティブな発音をする彼女。俺は彼女のことを調査済みだった。
「なんでってそりゃ、人の周りをコソコソと嗅ぎまわるようなストーカー野郎くらい既に調査済みだっての」
「調査済みってわたしはこれでも――」
「CIAの父親と日本人の母親を持つアメリカ生まれで日本育ちの公安警察だろ」
「名前はともかくとしてどうやってわたしのプロフィールを!?」
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