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次の日、嶺亜は朝早くに起床して学校に行く支度を始める。一人の生活は慣れていたはずなのに、嶺亜の心はどこかぽっかりと穴が空いているようだった。ぼーっとしながら部屋から出て鍵をかける。マンションから出ると、1番の親友がいた。
「おはよう…。」
「陸?何で…?」
嶺亜は慌てて陸の元に近寄る。陸は笑みを浮かべながら口を開く。
「お前のことだから、学校始まる前に先生のお見舞いに行くんじゃないかなって思ってさ!病院行くなら早く行こう!」
「……うん。ありがとう。」
二人は朝早くから、要のお見舞いに病院へ向かった。
「…失礼します。」
嶺亜と陸が静かに病室の中に入ると、何やら作業をしている要がいた。
「二人とも…どうしたんだよ、こんな朝早くに…。」
「先生のことが、心配で…つい…。」
そう言うと、要はくくっと笑った。
「お前ら、心配しすぎだろ。昨日の今日だろ?」
「そ、そうですけどっ…でも…やっぱりもう長くないって聞いたら…凄く不安でいっぱいなんです。」
嶺亜が言い終えると、笑っていた要の表情は、ゆっくりと真面目な表情に変わった。そして真剣な眼差しを送りながら要は口を開く。
「お前ら…俺のこと心配してくれたり、お見舞い来てくれるのは嬉しいけど、お前らは大事な受検を控えているんだ。だから、俺よりそっちを優先してくれ。」
「……」
要の言葉に二人は黙り込む。要は続ける。
「…俺はな、お前らが…クラス全員が受検に合格して、喜んでいる顔を見たいんだ。それが俺の望み。俺の見舞いよりも、勉強に専念してほしいんだよ。」
要は笑みを浮かべながら、そう言った。その言葉に二人とも強く心を打たれた。真っ先に口を開いたのは嶺亜だった。
「先生、俺達…必ず全員合格出来るように頑張ります!けど俺…先生のことも心配だから、だから毎日じゃなくても…先生のお見舞いには来たいんです。…ダメ…ですか?」
嶺亜がそう言うと、要はニコッと笑った。
「…分かった。そこまで言うならお前達を信じるよ。けど、落ちたら許さないからな?」
「頑張ります!」
嶺亜の真剣な眼差しに、要はふふっと笑った。
「ていうか、そんなにダラダラしてていいの?遅刻するよ?」
「…え?」
陸が病室の時計を見ると、どれくらいいたのだろうか。時計は8時を指していた。
「うぉ!?嶺亜!もうこんな時間だ!遅刻する!!」
「やばっ!走っていくぞ!じゃあ、先生。俺らもう行きます。お大事に!」
「おう。お前らも遅刻するんじゃねぇぞ~!」
急いで病室を出ていく二人を、クスクスと笑いながら要は言った。二人が出ていった後、要は少しだけ辛そうな笑みを浮かべていた。
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