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冬休みに入ってからも、陸と嶺亜は勉強を頑張りながら、要の見舞いに行っていた。二人が来ると、要はいつも笑っていた。いつものように。そんな要を見て、本当に病気が悪化しているなんて思えなかった。
「ねぇ、先生。大丈夫?無理してない?」
嶺亜は思い切って要に尋ねる。要は疑問に思い、聞き返した。
「え?無理って?」
「なんか…辛いのに、辛いって言わないで 無理してるっていう…そんな感じ?」
嶺亜がそう言うと、要から笑顔が少し消えた。そして、口を開く。
「…無理なんてしていない……って言ったら嘘になる。本当は、辛いよ。胸や骨が痛いし、呼吸困難になって苦しいし、体重も減ってるし…。でもな、お前らに心配かけたくないんだ。」
「え…?」
その言葉の意味が分からず、嶺亜と陸は聞き返す。要はまた満面の笑みを浮かべながら二人の方を向く。
「俺のことで勉強に集中出来なくなるかもしれないだろ?それは困るからな。こんなこと言ったあとで説得力とかないけど、俺は大丈夫だから。」
「……」
要の笑顔を見て、二人は何も言えなくなった。心が痛む。それからは、他愛もない話をした。相変わらず、要は笑顔を絶やさない。気がつけば、時計は15時を回っていた。
「あぁ、もうこんな時間か。二人とも来てくれてありがとう。勉強頑張れよ。」
陸と嶺亜は何も言わず、病室を後にした。笑顔で見送った要は、振っていた手をゆっくりと降ろし、俯いた。
「……ごめんな。二人とも。」
ボソッと呟く。誰もいない病室に自分だけの声が響く。孤独感が要の心を覆う。
「……うっ…」
胸痛が要を襲う。痛む胸に顔を歪める。そして、要は直感した。
……もう、長くないんだな。
そう思うと同時に、要の目頭が熱くなる。大粒の涙が溢れ出る。死にたくない思いでいっぱいになる。
「まだ……まだ死にたくねぇよ、陸…嶺亜…」
教え子と愛する恋人のことを思い出し、涙が止まらなくなる。要は普段、人の前で決して弱音を吐かない。吐かないというより、吐けないに近い。一人で何でも溜め込んでしまい、誰にも相談できないことが多かったのだ。
「…う、うぅ……。」
痛む胸を抑えながら、要は泣いた。誰もいない病室に、要の嗚咽が響き渡った。
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