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きっと…先生は、自分がもう長くないことに気づいていたんだ。
それで…あんな……。
俺は熱くなる目頭を抑える。
どうして…どうして気づかなかったんだろう。
どうして…失った後で気づいてしまうんだろう。
その時、ガラッとドアが開く音がする。
慌てて熱くなるものを堪えて、振り向く。
「黒澤先生、こんなところにいたんですか。探したんですよ。」
見知った人物であり、俺の親友。陸だった。
「あぁ。すみません。何か…ここにいると、懐かしい気持ちに浸れるので。つい。」
2人がいる病室、そこは亡き恩師が使っていた病室だった。
「今でもここに来ると…この時期になると思い出すんです。俺の、大切な人との思い出を。」
俺は微笑する。
すると、陸は俺の頭を優しく撫でる。
「俺の前では無理するなよ、嶺亜。見てて辛くなる。」
その言葉に、俺の涙腺は崩壊する。
「……っ…うっ…ごめん、陸…。俺、やっぱり…まだ気持ちの整理が…出来ないよ。」
俺は、陸の前でみっともなく泣いてしまった。
「大丈夫。落ち着くまでそばにいるから。」
陸はそう言いながら、俺の背中をさする。
こんな姿…陸にしか見せられない。
俺はやっと落ち着き、口を開く。
「…ごめん、もう大丈夫。ありがとな。」
「そう?なら良かった。お前は1人じゃないんだから、辛くなったらいつでも俺を頼れよ?」
陸の言葉に、俺は気づいた。
俺は…1人じゃないんだ。
そう思った瞬間、ふわっと後ろから風が来た。
後ろを見ても、誰もいない。
「…先生。」
何も根拠はない。
でも、分かった。先生だ。
きっと先生が、俺にそう伝えようとしたんだ。
「…ありがとう、先生。俺…これからも頑張るよ。」
小声でそう呟く。
「嶺亜?何か言ったか?」
「ううん、何でもない。さ、仕事に戻りましょう、神谷先生。」
「そうですね。行きましょうか。」
そのまま俺達は、病室を後にした。
病室を出る時、微かに聞こえた声を俺は忘れない。
「ずっと、君達を見守ってるよ。」と
そう聞こえた気がした。
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