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異世界からやって来た私を匿ってくれた、優しい人外がいた。モデルは人なのに、硬そうな尻尾と翼と爪を持つ、まるでドラゴンと人間を混ぜたような容姿の人外だった。
彼はグリーゲーニーと言った。
グリーゲーニーは森の小屋の側で縮こまる私を怪しんでいたが、決してきつく当たったり傷付けようとはしなかった。
「体調が悪いのか」と聞かれ、「頭が痛い」と答えると、彼は薬草を採ってきて、急いだ様子で小屋を掃除し、看病してくれた。
「名前は?」
「………ユリ」
「ユリ、旅の者か? ここは隠れ里だ。迷い込んだのなら、即刻立ち去った方がいい」
「………ごめんなさい」
「もちろん治ってからでいい。何日食べてない」
「二日、くらい」
彼は舌打ちしてからその場を離れ、ものの五分で帰って来ると、その手にはたくさんの野菜があった。
「作る。待ってろ」
そう言って何か呪文を唱える。すると、火が発生した。緑色の、不思議な炎だった。それで枝を燃やし、鉄製の椀で野菜を煮て、スープを作ってくれた。
「少しずつでいい。食べるんだ」
「………ごめんなさい」
「やはり言葉に差異があるな。こういう時はありがとうと言うんだ」
「あり、がと………」
この言葉を発したのはいつ以来だろう。幼稚園か、小学校低学年か。少なくとも中学、高校では言っていない。言う相手がいなかった。
そのせいだろうか。涙が出てくるのは。
こんな自分が、『ありがとう』と言えたことが堪らなく嬉しい。
私は泣きながら野菜スープを頬張る。感情が高ぶってるせいか味はわからなかった。でも、私は手を止めなかった。
食べ終えるまで、彼は何も言ってこなかった。
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