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じゃね、と私は言い残して、霧の深い森を真っ直ぐ走る。
友達も恋人も仲間もいなかった私に、初めて『ありがとう』を教えてくれたヒト。
彼のために死ぬ。それができるなら、きっと、私は自分の人生に胸を張れる。
無価値だった私の人生が、初めて色を纏う。
「勝手な女でごめんね」
色を持った人生の終演は、私にどんな景色を見せてくれるだろうか。
「全くだ。命を粗末にするな」
「えっ? グリィ?」
飛べないと言っていた彼が、飛んでやってきた。
そのことに驚いたのも束の間、所謂お姫様抱っこされて、飛んだまま来た道を戻っていく。
「ちょっと、早い! 恐い!」
「すまない」
彼は減速して、そっと私を地面に置く。ジェットコースターから降りたのような感覚だ。フラフラして、思わずしりもちを付いた。
「飛べないとか、境界からは出れないとか言ってなかったっけ?」
「我々の一族は、三つの嘘を経てから真実を語る。許してくれ」
変な習慣だ。だが嘘は二つ出た。あと一つ。
「一族は、俺以外にもいる」
これが嘘。
正直、何となく察していた。でないと、私に付きっきりで看病などできないだろう。
「一緒に居てほしい」
これが、真実─────。
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