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彼。
暑い暑いと言っている間に9月になって、9月も半ば。
日中はまだ残暑という感じだけど、日が暮れてからは流石に冷え始めてきた。
換気のために開けた窓からは絶えず冷たい風が脚を撫でていく。
もう鳴く虫も完全に秋だ。蝉の大合唱から、鈴虫のコンサートへ。
音だけなら綺麗なのに音を奏でる本人達はグロテスクだ。
毎回音を立てる本体の想像までしてしまって身震いをする。
それを見てよく笑っていた彼女も思い出してしまって、面影を求めてリビングの方を振り返る。
低い本棚の上で額に入り笑う彼女の写真がそこにある。
まるで声まで聞こえてきそうなその写真はお世辞にも良く撮れてるとは言いがたい代物だった。
ピントも定まっていなければ、撮影者のカメラを持つ指が右端のほうに影として映り込んでいるし、カメラもきっと斜めを向いていたに違いなく、写真の中の二人は額の中で少し歪んでいた。
弾けんばかりの笑顔をカメラに向ける彼女の隣、少し離れた位置に立ち、ぎこちない笑顔を浮かべているのが俺。
写真嫌いの俺が彼女の誕生日にせがまれて撮った二人の写真。
学生時代のものだから、二人とも随分若く、そしてあどけない顔つきをしている。
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