彼女の死

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結婚して二年。 俺達は慣れない夫婦生活の毎日に、幸せを感じていた。 家に帰ると彼女が居て、俺が居て、「ただいま」と「おかえり」がこんなに愛しい言葉だったのかと初めて知った。 一人でスマホを眺めながら済ます晩飯が、彼女と俺の団欒の時間に変わった。 彼女は幸せというものを、匂い、空気、声、風景、様々な形にして俺に見せてくれた。 一概に幸せ、というけれど、こんなに無限とも思われるほどに形を変えるものなのかと、俺はまた彼女に知らない世界を一つ一つ、教えられているような毎日だった。 彼女の小さな体の中に広がる広大な広い世界を毎日観光しているような気分だった。 「なんで長芋じゃなくてレンコン?」 ある晩飯の時間。「今夜はおこのみやき!」と嬉しそうに宣言した彼女に手伝いを頼まれた。レンコンを擦ってお好み焼きに入れると言う彼女に、確か俺はこんな質問をした。 「フフフー、レンコン入れると美味しくなるんだよ。」 「へえ?なんで?」 「わかんない!なんとなく!」 「わかんないのかよ!」 彼女はとても無邪気だった。それでいて爛漫で、俺の記憶の中の彼女はいつも笑っていた。それくらいに良く笑う人だった。     
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