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それにまだ彼女と俺が付き合う前に撮った写真だったし、もっと綺麗で良く撮れている最近の彼女と撮った仲睦まじい二人の写真も無いことは無かったが、俺は他の写真を飾るつもりは毛頭無かった。
部屋に飾る二人の写真は、兎に角これ以外考え付かないくらいに、あの写真は、俺にとって大切な写真だった。
それは、きっと彼も俺と同じであろうと思う。彼は普段、そんなこと尾首にも出さないのだが。
「レンコン、卸してくんない?」
卸し金と皮剥いて洗ったレンコンをリビングでくつろぐ若い黒髪の男に差し出す。
男は物静かにテレビのCMを眺めていたが、俺の呼びかけに顔をこっちに向けると、椅子から腰を浮かせてキッチンのカウンター越しに俺の手からレンコンと卸し金を受け取り、「いいよ。」と一言返事をした。
俺はそいつが俺に背を向けて猫背気味にレンコンをしゃりしゃりやり始めるのを見届けると、キッチンに向き直り、まな板の上に乗せたキャベツを細く刻んでいく。
鈴虫の声に、テレビのゴールデンタイムバラエティの喧噪に、包丁がキャベツを刻む定期的な音。レンコンを擦る音。
それら全てが折り重なって、あぁ、晩飯の音だ。
その音等を聞きながら、体も晩飯を察して腹を鳴らす。
これも含めて、俺と彼女が愛した晩飯の音だ。
「何で長芋じゃなくてレンコンなんだよ?」
リビングの黒髪が振り向かないままこっちに問いかけてくる。
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