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その質問に俺は知れず笑みを浮かべていた。昔、俺も同じ質問を彼女にしたことがあるからだ。これじゃ逆だな、と思って俺はまた笑う。
俺も背中を向けたまま、生地にキャベツを混ぜ込みながら、彼女の答えを思い返しながら応える。
あのかわいらしい笑みを浮かべて、得意げに言っていた声を思い出しながら。
「美味しくなるんだよ。レンコン入れると。」
「ふうん?なんで?」
「わかんない!」
「なんだそれ!」
二人で背中向けあったまま笑った。
晩飯の音と共にある二人の笑い声の中に、彼女の笑い声が混ざっている気がした。
ごま油の焼ける匂い。
ホットプレートに生地を落とせば香ばしい香りが一気に立ち上がる。
じゅう、という音すらも、油に踊る生地のふちっこも。
見るもの聞くもの香るもの、全部が素敵な茶色の彩りに満ちている。世の中で一番美味しそうな茶色、といっても良いかもしれない。
今夜はお好み焼きだ。珍しく目の前の黒髪のこいつが食べたいと言ってきたから。
「ひっくり返したい?」
「ガキ扱いすんな。鉄板で顔面焼くぞ。」
黒髪の男は、今年で21になる、と言うことになっている。
正確な年齢は俺も、彼も分からないから、出会った歳を切りよく二十歳、と位置づけて数えることにしていた。
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