2人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女の死
9年前、世界で一番愛した人が死んだ。
葵花子。28歳という若さで、花が散るようにこの世を去った。
それまでたくさんの彩りに満ちていた俺の世界が、一斉に、一切合切の色を失った。
彼女は正しく花のようだった。
旧姓は菊地花子という女性だったが、今時花子、なんて古風な名前がよく似合う、純粋で笑顔の絶えない子だった。
彼女との出会いは大学で、俺が三年の頃にちょくちょく顔を出していた読書サークルの後輩の彼女はその時一年生で、年の割には物静かなイメージしか沸かない子だった。
俺はSFサスペンスやホラーものの小説が好きだったけど、彼女はファンタジーや恋愛ものという女の子らしいものから、時代小説、ミステリー、アクションものまでを手広く、といった好みだった。俺の知らない世界を、その小さな体に沢山詰め込んだ、可愛らしい子だった彼女は、狭いジャンルの中を世界を生きる俺に、よくその小さな体を精一杯活用する身振り手振りで全く違う世界の話を、役者かおまけといった演技力も時には発揮しながら、俺に語って聞かせた。
最初のコメントを投稿しよう!