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常識を重んじるより、食欲の方が勝って、あたしは差し出されたお握りに手を伸ばした。
「あ! これ、中味ツナマヨだ! やったー! おぉっ! なあなあ、このからあげ、衣に粉チーズ入ってる?」
「うん。扇屋のからあげのマネしてみた」
扇屋は省吾のお気に入りのラーメン屋さん。サイドメニューのからあげがバツグンなのだ。
「さすが櫻井! 分かってるぅ。ん、卵焼きも、俺の好きな甘くない出し巻きの奴だ。最高!」
「この卵焼き、ちょっとしょっぱ過ぎたね。お塩入れすぎた」
「そっかー。旨いぜ」
大きな口でもぐもぐと、美味しそうに、あたしが作ったお弁当を食べてくれる省吾。さっきまでの絶望的な気分が、嘘みたいに幸せだった。
「……俺さ」
箸を止めずに、省吾が少し静かなトーンで話し出した。
「櫻井がなかなか学校に来なくって、すっげー心配してた。LINEも全然既読になんなかったし」
「ごめん、スマホの充電切れちゃってて」
「俺さ、後悔してたんだ。櫻井に『誰でもいいから弁当作って欲しい』みたいに言っちゃったこと。そんな失礼なこと言っちゃったから、櫻井はもう、呆れて来ないんじゃないかって思って」
省吾が、両手を膝に置いて、真っ直ぐあたしを見た。
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