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中学の頃から陸上部で、それも砲丸投げだなんていうワイルドな種目に属していたあたしは、色黒だし、筋肉質だし、誰よりも「華奢」って言葉が似合わない女子だって自覚していた。おまけにお洒落より食べる事が大好きで、高校に入っても、他の女子みたいに「恋」にときめいたりする事なんて無いって思ってた。
でも、省吾と出会って、部活帰りにあれこれ食べ歩きしながら、色々話すうちに、省吾と同じものを美味しいって言える事がすっごく楽しくて嬉しくなってきた。こんな毎日がずっと続けばいいって思った。ああこれが「恋」なんだって気づくまでに、時間はかからなかった。
本当は、一年の球技大会の時にも、省吾にお弁当を作ってあげたかったのだけれど、あたしは何しろ食べるのが専門だったので、料理と言えばインスタントラーメンどまりだったし、何より省吾はあたしを単なる「食べ歩き仲間」と思っていると信じていたから、その関係を壊すのが怖かった。
だから省吾に
「来年はお前が作ってよ」
と言われて、内心あたしは天にも昇る気持ちだった。
それからの一年間と言うもの、次の球技大会で省吾にお弁当を作ってあげる為に、あたしは密かに料理の特訓を続けた。もし一年の間に、省吾に彼女ができたら、約束も流れてしまう事に怯えてもいたけれど、高ニになって、またクラスメイトになれて、球技大会まであと五日となった月曜日の放課後
「櫻井―、おまえ約束覚えてるんだろうな」
って省吾に言われた時には、踊りだしたくなる気分だった。
「はぁ? なんの話よ」
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