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わざととぼけたフリをする。
「弁当だよ、弁当! 球技大会の! 約束しただろ? 去年。作ってくれるって」
「なによ省吾。結局誰もいなかったの? 作ってあげるって言ってくれる子」
「うるせーよ」
心底ほっとした。秘密の料理レッスンが、無駄にならなくって済んで。あたしは、何度も頭の中でリハーサルしていた台詞を口にした。
「しょうがないなぁ。じゃあ、あたしが作ってあげるか」
球技大会が開催される金曜日の天気予報は、晴れて気温も上昇するとテレビが伝えていた。お弁当が傷まないように、冷凍したゼリーを多めに入れようか、ぶどうも凍らせて入れればカラフルでいいかもしれない。省吾の好きなツナマヨのおにぎりは絶対外せないし、鉄板のからあげも何度も火傷しながら練習して、もう完璧にマスターしたから大丈夫。そんな風に、献立を考えているだけで心が弾んだ。
今まで、バレンタインのチョコレートはおろか、手作りの料理を男子に食べてもらった事なんてなかった。好きな人の為に料理するって事が、こんなにも幸せな気分になれるんだって、あたしははじめて知った。
(美味しく食べてくれますように)
そんな風に祈りながら、金曜日を待った。
あぁなのに、なぜ。
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