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「お久しぶりです、先輩。すいません。なかなか時間が取れなくて」
先輩は何も言わない。さぞお怒りのことだろう。
春風とともにたんぽぽの綿毛が飛んでいった。
「そういえば丁度、五年前の今日ですよ、俺があのなぞなぞといた日」
空を見上げると雲一つない澄み渡っていた。
今も忘れられない、あの日々。五年たった今でも、俺の中で色褪せずに残っている。
扉を開けるとそこに先輩がいた。
旧校舎の一階、もう使われることのなくなった生物準備室。六畳ほどの狭い部屋。
その扉を開けると先輩はいつも窓際に居て、憂いを帯びた表情で窓の外を眺めていた。
「やっと来たな、新しいのを作ったんだ。見てくれ」
俺の方へ振り返り、先輩はルーズリーフをよこしてきた。俺はカバンを適当な位置におろすと、紙に目を通した。
?ある日本人の探検家が財宝の眠る迷宮へとやってきました。
日本人の探検家は数多くの謎を解き、いよいよ最深部へとやってきました。が、そこにはたんぽぽ、アヤメ、ガーベラの花がコの字型に植わっているだけで、結局探検家は何も見つけられませんでした。
ところがその後に最深部にたどり着いたアメリカ人の探検家は見事に財宝を見つけ大喜びしました。
さて、なぜアメリカ人の探検家は見つけることができたのでしょうか。
「どうだ?」
車椅子に乗った先輩が俺に訊いてきた。
「面白いと思いますよ。ただ少しだけ知識がないと解けない問題ですね」
ルーズリーフを先輩に返しながら俺は答えた。
先輩は、そうかぁやっぱり難しいなぁなぞなぞ作りは、と残念そうにして「お気に入り」と書かれたファイルにルーズリーフをとじる。
先輩が問題を作り、俺が解いて感想を述べる。これが、ここなぞなぞ同好会の活動であり、俺と先輩が中学の頃から続けている遊びだった。
「今日初めて見ましたけど、その『お気に入り』ファイルに入れる基準ってなんなんですか」
いつもなら作った問題を「なぞなぞ」と書かれたファイル(今はなぞなぞの本や何が入ってるかもわからないダンボールが入っている棚に一緒に入れられている)にファイリングするはずだ。
先輩は、うーんと少しだけ悩んだが、乙女の秘密というやつだな、と誤魔化されてしまった。
俺が誤魔化さないでください、と言っても、君もいずれわかるからと返された。どうにも言いたくないらしい。
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