498人が本棚に入れています
本棚に追加
一人残された一砥はしばし無言でいたが、やがて何かを決心した顔つきになり、背広のポケットからスマホを取り出した。
*****
枕元の携帯が震え、花衣は無意識にそれを手に取った。
一砥からの着信だった。
一瞬迷った後で、花衣は結局応答ボタンをタップした。
「……もしもし」
「もしもし。俺だ。もしかしてもう寝ていたか?」
いつもの変わりない一砥の声にホッとして、花衣は笑顔で「いえ。寝ようと思って布団に入ったところです」と答えた。
「事故の方はどうですか? モデルさんの怪我は大丈夫でした?」
「ああ、そちらは滞りなく片付いた。怪我も思ったより酷くない。……悪かったな、一人だけ抜けて」
「いえ……」
「あれから何かあったか?」
「え……」
いきなり単刀直入に問われ、花衣はどう答えたものか分からず言葉に詰まった。
「あの、えっと、あるにはあったんですけど、でも会長のお陰で、事なきを得ました」
一砥はクスリと笑い、「随分大げさな言い方だな。そんな大ピンチに陥るようなことがあったのか?」とからかい口調で言った。
「……私の口からは、上手く説明出来ないんですけど……。明日にでも高木秘書に聞いて下さい」
「……いや、報告はもう受けた」
「え?」
「あの二代目のバカ社長に絡まれたんだろう? 嫌な思いをしたな」
「一砥さん……」
最初のコメントを投稿しよう!