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第十話「真実の価値」
1
「一砥さん……。一砥さん……」
遠くから自分を呼ぶ声が聞こえて、一砥はハッと我に返った。
視線を正面に向けると、心配そうにこちらを見る花衣と目が合った。
――午後九時半。
学校まで迎えに行った後、一砥は花衣を、いつか話した駅の近くにある無国籍料理のレストランに連れて来ていた。
軽めのコースを頼んだ二人だったが、花衣は前菜から「美味しい!」「何これ珍しい!」と歓声を上げて喜んでくれた。
初めて食べる料理に無邪気に喜ぶ花衣を、一砥は微笑ましい思いで見つめていた。
しかしその清らかな笑顔に、高蝶泰聖の醜く歪んだ顔が重なり、一砥は咄嗟に視線を逸した。
そして心はいつしか、その後の剛蔵との会話に引き戻されていた。
「お前まさか、あの娘に本当のことを教えるつもりか?」
剛蔵は厳しい表情で一砥を見た。
「それをして一体誰が益を得る? いたずらに娘の心を傷つけるだけではないか?」
それに対し一砥は、「しかし彼女には、知る権利があります」と反論した。
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