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「確かにそうだ。だが知った後で、あの娘に何が出来る。おそらく高蝶の家はその事実をけして認めんだろう。DNA鑑定を要求することは出来る。だが結果は変わらん。どのみちあの娘は、下らん因襲のせいで実親から捨てられたことを知り、己の不遇を嘆き、自分の家族を恨むだけだろう。お前は自分の好いた女を、わざわざ不幸にしたいのか」
「それは……」
「娘のことを思うならば、今日知ったことはけして話すな。藪を突いて蛇を出した結果、そいつに噛まれるのはお前とあの娘だけだ」
「…………」
それでも納得しない顔の孫を見て、剛蔵はハァと息をついた。
「……なら、一砥。先にお前が真実を知るか?」
「え……」
そこで祖父から聞かされた言葉を思い出し、一砥はキュッと唇を引き締めた。
そんな彼を、花衣は無言で見つめていた。
彼の様子がおかしいことは、店に到着する前から気づいていた。
いつものように笑顔を向けられても、そのどこか作ったような笑みから、彼に何かあったことは分かった。
初めは黙っていようと思ったが、メインディッシュが運ばれて来た後から、ナイフとフォークを両手にしたまま固まった一砥を見て、花衣は我慢出来なくなった。
「一砥さん……」
三度目の呼び掛けで、一砥はようやくこちらを向いた。
「何かあったんですか?」
真っ直ぐな瞳に問われて、一砥は視線を皿に落とした。
手にしていたカトラリーを置き、ワイングラスに手を伸ばす。
花衣は彼がワインを飲む間、辛抱強く待っていた。
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