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赤ワインをグラス半分飲み、一砥は「今日、君と電話で話した後……」とようやく口を開いた。
「祖父に会ったんだ」
「雨宮会長に?」
「ああ。そして母の話を聞いた」
視線をグラスに向けたまま、一砥は努めて冷静に話した。
「俺の母親のことは知っているだろう。女優の真邉藤緒だ」
「はい。テレビでしか拝見したことありませんが……」
「俺もだ」
即答し、一砥は皮肉な笑みを浮かべた。
「一番最近会ったのは、父親の葬式だった。あの時だって、ろくに言葉も交わさなかった」
「…………」
一砥はもう一度、グラスに口をつけた。
残りの半分を飲み干して、彼はゆっくりグラスを置いた。
「今日祖父からは、父と母の馴れ初めを聞いた。月光堂グループのパーティーで知り合い、父は母に全く興味を示さなかったが、酔っ払った父を母が介抱し、その時に俺が出来たらしい」
「え?」
「つまり俺は、一夜の過ちで出来た子ってことだ。母は父に結婚を迫り、父はそれを承諾した。月光堂グループ御曹司と結婚したことで、無名の女優だった母は一躍、時の人となった。出産ギリギリまで女優の仕事をして、俺を産んで半年後には映画に出ていた。つまり……」
一砥はどこか遠い目をして、言った。
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