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「父は母に嵌められたんだ。そして俺は、彼女の出世の道具として使われ、用済みとなって捨てられた」
「一砥さん……」
何と言葉を掛けたら良いか分からず、花衣は声を途切れさせた。
「……両親が出来婚だったことは知っている。だが当時のメディア記事には、妊娠が発覚する半年前から付き合いがあったと載っていた。それは嘘だと祖父は言った。世間体を考えて、そういうシナリオを書かせたのだと……」
一砥は話を続けた。
「妊娠が発覚した際、父は祖父に相談したらしい。祖父は母を呼びつけ、本当に息子の子かと問うたそうだ。母は自信たっぷりに、間違いありません、と答えたそうだ。父と寝た日、あの日まで自分は処女だった。二十年間ずっと処女を守り通したのは、この日の為だったと……。言いように金を払うから堕胎するつもりはないかと訊ねると、母は、それでは私は無名のままです。雨宮一喜と結婚し彼の子を生む方が、後々の女優人生にはプラスになる。だから堕胎はしない、と答えた。祖父は彼女の野心の強さと気骨を気に入り、父との結婚を許した。父は生まれる子に罪はないのだからと、彼女との結婚を受け入れた。そして俺が生まれた……」
そこで一砥は、クッと自嘲の笑いを零した。
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