名前

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「さあ、これで証人の3人の全ての発言が終りましたね。さて、次なる証言者は貴方です。そうさっきから不審げにこちらを見ている貴方です」  男の目がこちらをひたりと見据えた。長めの前髪から覗く目は快活な声と裏腹に暗い。 どこかで見たことがあると思った。でも思い出せない。 そもそもなんでこんな場面を見せられている?駅のホームじゃなかったのか?気が付いたら椅子に座り、裁判所の傍聴席のようなところにいた。そして、裁判のように一人目の男が語りだしたのだ。俺の他にも見学者のような人々がいてそれぞれメモを取ったり、頷いたりしている。 「どうしました?発言をお願いします」 「ちょっと待ってくれ、なんでここにいるかわからないし、何について話せばいいのか そもそも何のことか全くわからない」 と言うのが精いっぱいだった。誰かに状況を説明してほしかった。 「そうですか…」  と感情を見せない声で呟いた男は 「でも、貴方は選ばなくてはならない」  だから何を?と声を上げたが、いつの間にか自分の周りを大勢の人が取り囲んでいる。椅子や机も消えていた。まるで満員電車のように身動きが取れない。 「 」  口々に何かを呟いているようだが上手く聞き取れない。そうしている間にも行進のように動き出した列に合わせて進むしかなくなった。何とか身を乗り出して前方を見たが、うめき声のようなものしか出なかった。なぜなら暗闇の先に崖があったからだ。昔映像で見たレミングの集団自殺のように行進は進んでいく。 「止めろ!俺はまだ死にたくない!」  叫ぶが、集団は止まらなかった。何とか手を伸ばし足を動かし流れに逆らおうとしたが、抵抗が強すぎた。あと数歩で落ちるというとき、振り返ると集団の一人が 「俺がやらなきゃいけないんだ」 と呟いた気がした。
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