1章 リストに載ってないモンスターが出ました

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 かつては就職において『武系』は最も有利だった。しかし、彼らが暮らす王国の様な先進国では、肉体労働よりも事務仕事や魔法仕事の方が盛況で、『武系』の就活生達の雇用状況は芳しくない。 「せめて勇者業に関わりたいって想いはあったんで……。同期連中が建設業とか漁業に進むの横に見ながら、『剣士』の王国資格免許を卒業前にギリギリ取って、就活始めたってわけです」  勇者間で選択されるジョブの中でも、最も前線に立って戦う場面が多いのが『剣士』。 砲兵同様、かつては魔物との戦争においては中心的な存在だったが、科学や魔法技術の高度化に従って需要は減少傾向。街中に貼られる勇者の募集を訴えるポスターでも、一昔前は紙面の中心を飾る程の人気だったが、近年はすっかり『漆黒の肉体労働』として敬遠されている。 「まぁ、最近なんて陸戦は『ゴーレム』部隊が主流だもんな。『理系』出身の科学者連中が組んだAI使ったゴーレムがありゃ、昔みたいな白兵戦なんてするメリットが無いからな」  ゴーレムなどの無人兵器が投入されてにいなかった頃の、昔ながらの戦線を知るエッジがしみじみと物思いに耽る。  特に近年は人権団体が五月蠅いので、生身の人間を戦場に送るには、相当な逆風を捏ねなければいけない。子供向けの絵本でも、生身の剣士がモンスターに立ち向かう絵が、戦艦に乗って闘う絵に差し替えられている。 「暫くフリーでやって、意地で結果いくらか出して、ここの中途採用に受かったけどさ……先は見えないんだよなぁ。せめてもうちょいマシな学歴取っておくべきだったかな」 「そうでもないっすよ?俺の後輩でもハイレベルな私立魔法アカデミーの院卒がいますけど、そいつも苦労してますもん。  成長を続けた教育産業も、現在は王国が少子化に向かっているために斜陽。王立アカデミーなどの王室と関わりがある学院を覗けば、形骸化しがち。 卒業した所で何の役にも立たない学歴だけが残る、というケースは少なくない。 「マッドは、もう一回フリーでやらねぇのか?」 「いや~厳しいっすね。いくらクエスト一件当たりの単価が高く取れても、受注数自体が減りますからね。」 「けどよ、一応ここだって勇者業界の会社だってことには変わりないしよ。職歴有の方が、無かった頃よりもクエスト受注に有利じゃないのか?」
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