1章 リストに載ってないモンスターが出ました

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「どうだった?」 「――最悪です。今日の現場、俺ら社員3人以外はバイトの勇者が1人も来ないそうです」  街から12里程度離れた山麓で、中堅勇者・マッドはベースキャンプで通信機器を切った。 「おいおい勘弁してくれよ。中型モンスターの討伐クエストだぞ?7人は欲しいって言ってんじゃん。未経験のバイトでもいいからってさ」  マッドが忌々し気に腰から下げた剣をコツコツ叩いている横で、ベテランの勇者・エッジは地面に杖のように立てたボウガンにウンザリともたれ掛った。 年を重ねて広がった額には、ジンワリと汗が浮かんでいる。 「大体ギルドの掲示板にもよ、募集人数7人で討伐依頼出てたろ?で、今回のクエストに関してはウチの”勇者派遣会社”『ブレイブアドバンス』しか受注してないから他の会社に所属してる勇者とかフリーランスの勇者で募集人数が埋まるわけもないし……。そもそも応募はあったのか?」 「それが、元々クライアントからは一人頭で日給が9800金貨まで払える程度の額が設定されてたんですけど、ウチラ『討伐部』が金使い過ぎだって『営業部』から横槍が入ってたらしいんすよ。で、ウチらの部長が気ぃ使って営業部側の人件費にいくらか回るように内訳調整したみたいで」 「マジで?ったく、部長もどうして他部署相手にこんなに押しが弱いかね」 「で、ウチを通して今日のクエスト受けた場合は時給換算したら他の会社で別クエストに行った場合と比べて明らかに安い価格になったみたいで。結局、全然人手が集まらなくてこのザマです」  呆れたように語ると、マッドは腕を組んでため息をついた。色黒の肌に苦悩が浮かぶ。 「マジかよ。そもそもさ、結構前から優秀な奴はフリーで会社通さずにギルドと直でクエスト受注しちまうから、いくらかコッチの支払額も上げてくれって言ってんのに……。ウチの会社は全然対応してくれねーな」 「けど、価格競争じゃ絶対フリーには勝てないですし、それどころか大手の派遣会社にも勝てないっすよ。ウチみたいな中小企業じゃ。今朝新聞見たら、株価また下がってましたし」  勇者派遣業は近頃若者の間では労働環境が劣悪な企業を意味する“漆黒企業”と呼ばれ、嫌われがちな職種だ。唯一、他の業界に勝る特徴があるとすれば給料の高さぐらいだが、彼らが所属しているような中小規模の派遣会社では、給与の面でも大きな恩恵は得られないのが実情だ。
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