第2章 彼と歌

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 私たちは文化祭を放棄してお兄さんの家に向かった。お兄さんが隠そうしていたことについて聞くために。 「まず、結菜の姉は僕の昔の恋人だった。大学ではいろんな人からからかわれたり、一部では罵声を浴びせられた。でも、僕たちはそんな気にも留めなかった。たった一人彼女が居れば何もいらないとも思っていた。彼女はよく妹の話をしていた。妹がいじめられて心配だとか、とても可愛いとか。」  彼は心なしか悲しそうな顔をしている。姉のことを思い出すのが辛いのだろう。そんな彼を見たくない。私は勇気を振り絞る。 「そんな過去のことは私にはどうでも良いです。  …どうでも良くはないですけどまず、名前が、お兄さんの名前が知りたいです。」  気づいたら泣いてしまっている。何でだろう。 彼は少し驚いてから笑った。 「陽介だ。僕は君が好きだ。これは自己満足で結菜には迷惑だと思う。でもそんなの知らない。」 陽介は私の顔を彼の胸に押し付ける。 「本当に迷惑ですよ。」
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