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「ほんま、人間として最低なやつにおうたわ。最悪!」
「どないしたん。みゆ。えらい、剣幕やな」
「そやねん。な、聞いてな。塾の帰りにスーパーに寄ってな、お菓子をこうてん」
「なんや、コンビニやあらへんのん」
「コンビニにない、お菓子を買いたかってん。でも、それ一個だけ。そしたらな、後ろに並んでいたおっさんとおばはんのカップルがな」
「おっさんとおばはん」
「そや、そいつら、えらいせっかちでな。うちの買い物の勘定が終わるか終わらへんかのすきにな、うちのお菓子をよけて、自分らのこうたもんを袋に入れ始めよってん」
「なんや、ようわからんけど。みゆは腹が立ったんやな」
「そや。当たり前や。なんでも順番、というもんがあるやろ。人のこうたお菓子を触らんでもいいわ。うちのこと、子供や思うて、なめられたんや」
その時、背後から
「えらい剣幕やな。ストレスが溜まりすぎてんのとちゃうか」
振り返ってみゆは、
「勝手に人の話を聞かんといて」
そう言ったものの、心は複雑だった。
みゆは、男という存在が苦手なのだ。高校二年になるにも関わらず、未だかつて自分から、男子に話しかけた事がなかったからだ。
不可抗力で話しかけてしまった男子は、
学校で一番人気があるイケメン男子、翔大くん。
振り返って見た一瞬、翔大の笑顔にみゆの中で何かが弾けた。
「これって、何やろ」
みゆは、レインボーカラーのように輝きはじめる心に、ひとつステップを上がったような気持ちになっていた。
「みゆ。どうしたん。おっさんとおばはんの話しは?」
「あ、もうそれはええねん」
みゆは、ちょっとだけ、おとなになった。
そんな気がしたある一日。
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