Springtime of life

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Springtime of life

 四階の化学実験室。窓際の席から外の景色を見ると、ちょうど学校の屋上が見える。コの字型の校舎から化学室と屋上はちょうど向かい合うような形になっていて、授業が暇な時などはよく眼を遊ばせているのだが、その日は珍しいものが見れた。  屋上の寂れた風景に似つかわしくないものがある。確か、あそこは落下防止の柵がないため立ち入り禁止になっていた筈だけど、サボりだろうか。それに、遠目に見える人物に幸太郎は覚えがあった。  幸太郎の属する二年B組には年度初めの始業式から空いている席がある。  ――宮野あかり。  名前は辛うじて覚えているが、二ヶ月経った今でも教室に来ている姿は見ていない。そんなだから、興味なんてさほどもなかったのだが、窓の向こう側にいる人影を見てしまったらそんなことも言えなくなった。  宮野は不登校と言われている。なぜそうなったのかは分からない。去年は普通に登校していたみたいだけど生憎クラスが違うから面識はなかった。今まで特に気にも留めてはいなかったが、目撃してしまったからにはしようがないというものだろう。 「――先生」  教壇に立っている教師に一声かけると、どうした?と視線が向く。いきなり声を上げた幸太郎に周囲の眼差しも相まって、気まずさを感じながらもおずおずと口を開いた。 「気分が優れないので、早退してもいいですか?」  申し訳なさそうに眉を下げると、白衣を着込んだ初老の化学教師はわかったと了承した。担任には伝えておくからそのまま帰りなさい、と穏やかな声音が聞こえてきて、荷物をまとめるとさっそく幸太郎は化学室を後にした。  もちろん、先ほどの体調が優れないというのは嘘だ。成績も良く目立ったことさえしなければ、教師というのは案外寛容なのだ。
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