当たり前の光景

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 足早に通路を駆けながら、状況を確認する。 『要救護者のライセンスは斥候≪シーフ≫。浅層の探索をしていた時に、トラップに引っかかって引きずり込まれたそうです』 「名前は?」 『ニールス」 「知り合いだ。顔見りゃ分かるな」  何度かギルドで顔を合わせたことがある。  俺よりも少し年上のヒュームの兄ちゃんだ。普段は浅層で動物系の魔物を狩っている。  ナイフの腕は悪くないし、状況の判断力もある。まあ――それでも運悪くトラップに引っかかればどうにもならないが。  指定された場所に移動すると、壁に横たわっている男が見えた。  床には血の池が広がっている。 「――あ」  絶え絶えの息を吐き出し、虚ろな瞳で俺の方を見る。少なくとも、意識はある。 「待って居ろ、今応急手当てをする」  背嚢から包帯と強壮薬と鎮痛剤を取り出す。  傷口を止血し、薬を飲ませる。程なくして呼吸が落ち着いてきた。  さすがはセイルの薬だ。即効性はある。 「すまない……」  今度は、ハッキリと聞き取れる声が聞こえた。 「とりあえず、歩けるな。早く行くぞ」  肩を貸してなんとか立ち上がらせる。ハーフリングの俺にはヒュームの肩を貸すと言うより、腹部から持ち上げる形になってしまう。 「血の匂いに敏感な奴がいるんだ」  魔物はすぐに寄ってくる。少しでも急ぐ必要があった。  とは言っても、けが人を抱えながらでは速度に限界がある。  『ソレ』は、すぐに現れた。 「伏せろ!」  蝙蝠の羽音が聞こえてくる。  それと同時に風切り音。 「うわあ!?」  悲鳴を上げるニールスを無理やり押さえつける。ちょうど顔があったところを、黒い影が通り過ぎた。  それも、何十個も。
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