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「さて……」
勇者を見送ると、踵を返す。
『迷宮』内に浮かぶ魔力の塊が青白く床を照らす。不自然なまでに整った石畳と壁の先、暗い通路が続いていた。
「それじゃあ行きますか」
音もなく歩を進める。
これからが、俺の仕事だ。
勇者の痕跡に従って通路を歩く。程なくして魔物の死骸が見つかった。
残っている魔力の残滓を確認しながら、ギルドから支給された皮のポーチに詰めていく。
子供の頭くらいの大きさのポーチに、数メートルの魔物の肉が収まっていくのは妙な感じだ。
「圧縮ポーチは収納には便利なんだがな……」
魔力で内部に広大な空間を持つ圧縮ポーチ。取り出す際には特殊な解除術式が必要な上に、内部が整理されていないので取り出すのには不便ではあるが、入れるだけなら便利でこの上ない。
『迷宮』は魔物を生み出す。
魔力によって呼び出された動物や植物は『迷宮』の内部で異常な変化を遂げ、鉄よりも固い牙や鱗、特殊な効果を持つ皮を生み出す。
通常、それは人間にとって脅威であるが、加工次第では強力な武器にもなる。
それを回収するのが俺の仕事の一つだ。
『ニック』
幼さの混ざった少女の声が頭に響いた。
魔力による通信だ。
「どうした、テレサ」
ギルドで待機している通信魔術士の名前を確認する。
『救援の依頼よ、場所は深層の――』
どうやら、素材の回収が一時中断しなければならないようだ。
「了解。座標を教えてくれ」
もう一つの仕事の始まりだ。
『それと……勇者は帰ってきたわ。ありがとう』
「どういたしまして。励ましてやってくれよ」
それとは別。仕掛中の仕事は無事に終わったらしい。
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