（旧）異世界も 合わないのなら 意味がない

１

　会社の昼休み、皆がお弁当を食べたり外に行ったりする中、俺は部下を呼び出していた。
「いったいなんですか、御剣（みつるぎ）さん」
　脂ぎった小只（おただ）の顔が歪む。それはこっちの台詞だ。俺は机に一冊の本を出す。その本にはピンクの髪をした女のイラストが描かれていた。
「あ、それは……。御剣さん盗ったんですか」
「まさか。落ちてたから、拾っておいたんだよ」
　小只が手を伸ばしたので、触れる前に取り上げる。当然、不満な顔をされた。
「返してくださいよ。お昼の時間が減るんですけど」
「権利を主張するなら、まず義務を果たせ」
　意味がわからないとばかりに、小只は首を傾げる。こいつ、バレてないと思っているな。
「知ってるんだぞ、仕事中にこれ読んでるの」
　しかも、締め切り丁度に仕事が終わるように調整していることもな。俺が突きつけると小只の顔が途端に汗まみれになった。
「お言葉ですが、御剣さんも本読んでるときあるじゃないですか」
　足掻くように俺の机の上を指差す。その先にはビジネス本を何冊か並べていた。俺が確認すると小只がにやりと笑う。揚げ足を取ったつもりか。
「俺は仕事終わってから読んでるから。それに読むことで知識を得ることができるんだ」
「つまり、ライトノベルは得るものが何もないというんですか？　ライトノベルも立派な文学ジャンルの一つです。読書離れしつつある若者たちにも親しまれるようになっています。しかも、テレビアニメ化などのメディアミックスの原作としても貢献しておりますし。ライトノベルは世界に誇れる日本の文化なんです！」
　一通り言い終えると小只はふんぞり返った。あの、言いたいことは分かるんだが。
「俺、そのライトノベルを馬鹿にしてるわけじゃねえから」
　小只がえ、と間抜けな声を漏らす。
「主人公が強かろうが女たちに囲まれようが、何だっていいんだけど。仮に得られたものがあったとして、お前はそれを生かしているのか」
「いや、普通に面白いから読んでるだけなんですけど」
「なら、空想に浸ってるだけでお前自身は満足だってことだな」
　そうじゃないですか、とヘラヘラと笑うデブ。俺は胸ぐらを掴んだ。さすがに、雑談していた社員たちが黙って注目してくる。