（旧）異世界も 合わないのなら 意味がない

３

　たった二言程度なのに、顔が熱くなり胸の鼓動が分かりやすく跳ねる。何の真似だ。こんな中学生みたいなこと、ありえない。きっと誰かのイタズラだ。ロッカーの端にあるゴミ箱に捨てようとする。しかし、黄色い便箋と丸みを帯びた文字が躊躇をさせた。また、その手紙を見つめ、真偽の証拠がないか確認する。屋上で伝えたいことがある旨以外書いてないし、匂いも無臭だ。

　確固たる証拠が見つけられなかった俺は、僅かな可能性を信じて屋上へ向かった。夕方の屋上はオレンジ色の光で照らされている。屋上自体には、滅多に使われない倉庫や憩いの場としてのベンチくらいしかない。俺は柵に肘をつき、改めて手紙を確認した。告白されたことはあるが、社会人になってから、青春漫画のような告白を受けることになるとは。そのワンシーンを想像し、笑みが溢れる。我ながら気持ち悪くなって口を押さえた。
　しかし、楯山は来ない。やっぱりイタズラか……いや、用事があって遅くなっているだけかも。手紙も見飽きて、今度は遠くを眺めた。大小様々なビルが立ち並び、明かりが灯っている。
あまりの暇さに明かりのついた窓を数えていると、突然誰かに太ももの辺りを掴まれた。そして、柵を支点に持ち上げられ、俺は呆気なく屋上から投げ出された。
　一瞬で屋上は見えなくなり、逆さまの自分が会社の窓に映る。さらに、回転していき正面には夕焼けの空が見えた。目の前が空ということは、背中には……。その空が遠くなっていく。俺は恐怖のあまり、目を閉じた。ジェットコースターを反対に乗っている気分だ。その速度が上がっていき、抜ける風の音も激しくなる。自分の肉体すら置いていかれそうだ。早く地面でもどこでもいいからぶつかってくれ。