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「パッセルは狩猟民族なので、いろんな物が珍しいんですって」
なるほど、彼女にとっては画期的なんだろうな。すごいすごい、と拍手を送ると、パッセルは満面の笑みを浮かべた。その後ろを、布に包まれた大きな平たいものを背負ったヒネーテが横切る。向かった先は玄関の方だった。
「ちょっと行ってくる」
「剣の修行ですね、いってらっしゃい」
マギサがヒネーテに手を振る。剣の修行か。俺、確か勇者だったよな。
「俺の剣とか、どこにあるんですか」
「剣なら、ベッドの横に」
マギサに言われ、俺はベッドの方に戻った。ベッドの隣にある小さな棚の上に衣服が置かれ、横には一本の剣が立てかけられている。金色の柄には宝石の装飾が施されていた。
「これが俺の剣なんですか」
「はい。これは魔王を封印するための伝説の剣です」
マギサの説明を受け、改めて見つめる。竜の紋章が彫られていて、まさにファンタジーに登場しそうな代物だ。本当に、この世界の俺は勇者だったんだ。感傷に浸っていると、玄関の方からヒネーテが呼ぶ。
「イサムも修行についてくるか」
ヒネーテにきかれ、ふと頭にあることが浮かんだ。確か、この世界の俺は魔王と戦ったことがある。もしかして、俺、結構強いんじゃないか。
「あ、はい、行きます」
返事をして自分の手を見つめる。とてつもない力が秘められているような気がしてきた。その威力、ぜひ味わってみたい。意気込みながら剣の柄を掴み、持ち上げようとした。ところが、びくともしない。俺、勇者じゃなかったのかよ。歯を食い縛り、手に力を入れるが全く動かなかった。唸っていると横から手が伸びて、剣の鞘を掴む。
「何をしてるんだ。アタシが持っていくよ」
声の主はヒネーテで、いとも簡単に剣を持ち上げ、担ぐように運んでいった。どこにそんな力が・・・・・・。俺は口を開けたまま、ヒネーテの括れた、しかし大きくもある背中を眺めていた。
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