相席より愛はこめられないけれど

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 そこまで期待していなかったが、予想以上においしい。思わず感想が漏れた。 「だろ?」  と、先ほどの彼がうれしそうに話しかけてきた。 「え? は、はい」  困惑するわたしをよそに、彼はしゃべりつづける。 「ここのは揚げたてなんだよ。だから冷めちまう前に食べたほうが絶対うまいんだ。ま、冷めてもうまいんだけど。いや、でもやっぱり揚げたてかな。うん、揚げたてが一番だ」  雄弁を振るいながら、彼の視線がだんだんと、わたしのからあげ定食に落ちていく。もの欲しそうな表情が、なんだかおなかを空かしたクマみたいだ。  わたしはおずおずと聞いてみる。 「ひ、ひとつ食べます?」 「マジ!?」  周りがびっくりするほどの大声が食堂に響き渡り、彼の瞳が宝石のようにキラキラと輝いた。  たぶん彼は最初から、わたしではなく、からあげ定食がお目当てだったに違いない。
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