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もう僕は終わってしまっていた。
そのことを告げると、女はこともなさげに棒を引き抜き、僕の棒から避妊具を抜き、捨てた。
なぜだか急に今日一日の色々な出来事がフラッシュバックしてきた。
下らないネット漫画を読みふける毎日も、そのことで世間からずれつつある自分に言い訳するかのように仕事に取り組む自分も、毎日女性のことばかり考えているがそんな自分を否定しようとするプライドも、何もかも下らなくなった。
向こう側に着いた今だからこそ、河原の反対側にいる自分にこう言ってやりたかった。
お前は特別じゃない、特殊能力なんてあるはずもないと。
何が時間の長さを操れる、だ。
何が時間がコマ送りだ。
何が時間を永遠にできる、だ。
今までの自分を思い出すとそこはかとなく恥ずかしくなり、もう何もかも嫌になってきた。
恥ずかしさとも、やるせなさとも、照れとも、情熱とも、モチベーションとも言い切れない、いろんなものが混じった感情がぐるぐると回り始め、僕はいてもたってもいられなくなった。
「ありがとう。もう帰ってくれない?」
僕は思わず女に言った。今は一人になりたかった。
女は何も言わず服を着、ずれたベッドのシーツを直し、帰ろうとした。
すぐに帰れと言われ、少し腹が立っているのか、僕の方を一切見ず、玄関へ向かった。
彼女が靴を履くのをこともなげにぼんやり眺めて待っていると、部屋の中で何か音がした。何かは分からないが、大きな音がしている。部屋の方を振り向くと、机に置いたスマホが光っていて、何か通知がきていた。
女は扉を開けようと、ドアノブを持つと、女の鞄の中からも大きな音が鳴り響いた。
開けたドアから、灰色の空と、豪風が吹きすさびありとあらゆるものが空を舞う姿が見えた。一瞬ドアを開けただけでその雨が家の中に物凄い勢いで入ってきた。その瞬間、僕と女の携帯が鳴る音が聞こえた。
「台風警報。甚大な被害が予想されますため、速やかに屋内に避難して下さい。」
スマホの画面の上にはニュースアプリから通知が来ており、同じような旨の内容だった。予測では、今晩はやむことがないそうだ。
「悪いけど、今晩泊めてもらっても、いいかな?」女は顔に僅かな笑みを浮かべ、僕に尋ねた。
永遠とも思える時間が、今始まろうとしていた。
終
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