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洗面台の鏡に写る僕の顔は、全体的に赤見が増しながらも唇は青っぽく、少し口角が上がり目は見開いていた。絵に書いたように、欲望を前に待ちきれずにいる顔だなと僕は自覚し、この気持ち悪い顔を両手で思い切りひっぱたいた。腫れによって頬が更に赤くなったが、さっきより少しはまし顔になった気がする。ふと鏡にうつる時計を覗きこむと、もう定刻を3分ほど過ぎていた。
デリヘル嬢は何をしているのだろう、まだ着かないのだろうか。
何かあったのだろうか。
時間を操れるのなら、今こそ時間の流れを倍速に進めたい。
もしかして、既に家の前にいるのだろうか。
到着の上で、今からコトを行う男性がどんな人間なのか知っておこうと、部屋の外で聞き耳を立てているのかもしれない。
いてもたってもいられなくなった僕は、ドアの覗き穴から外を見た。誰も写らなかった。
やはりまだ来ていないのだろうか。
確かめようとドアを開けると、その瞬間、ジャストタイミングで階段の角からこちらへ向かい、曲がってくる女性が視界に入った。
人相を判別するかしないかのうちに僕は急いでドアを閉めた。大きな音をたてて閉められ、一瞬の沈黙を、僕はドアを背にしながら全身で感じ取っていた。
コツッ。コツッ。
先程の女性のものであろう足音が、こちらに向かってくる。
コツッ。
やがて音は止まり、再び一瞬の沈黙だった。
ピンポーン。
やはり、さっき一瞬見てしまったの女性が今夜、僕の初めてを捧げる女性だったのだろう。
覗き穴から外を見ると、ドアの前には、金髪で黒い地肌に、気の強さを連想させる黒い縁取りのされたアイメイクといった、いかにもギャルっぽい20代くらいの女性が立っていた。深呼吸をし気を取り直すと、覚悟を決めて僕はドアを開けた。
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