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ドSの朝は大変です
「おはようだ」
──少女は起床した。そして、井戸へ向かうと、日課の水汲みをはじめた。桶いっぱいに注いだ水は朝日にきらめいている。
最後に掬った水は、少女へのご褒美。美しい金髪を朝の匂いになびかせながら、渇いたのどを潤す。
口元をつぅと流れる雫が、少女の清らかなきめ細かい肌を撫でる。小さな口に似合わない大きな杓子、それをもつ白くか細い腕。
光のヴェールと比喩すべきであろうか。朝日を纏うように佇むその少女に、美しいと思わざるをえない。
「おはよう」
「おはようございますわ」
目覚めの珈琲を嗜む父への、軽い会釈に挨拶。品性な顔立ちにたがわぬ透き通る声をしている。
「そうだ。お前に届きものがある」
なんでしょう、と訊ねるより先に、父より手紙を受け取った。
「これは……。まあ! お姉さまの字ですわ!」
嬉々としている娘に父は頬を緩める。
この微笑ましい光景。しかし、そのなかには、微笑ましくないものも──。
「『おはようだ。元気か? こっちは元気だ。あまり無理をしてこの姉に恥をかかすでないぞ、クソガキ』ですって! お姉さまったら、照れちゃって。うふふ」
「お、おう。そうだな」
父の顔が引きつる。もうひとりの娘に父は頬をつっぱる。もちろん、悪い意味で。
品のない字にたがわぬ品のない言葉遣い。なんとも微笑ましくないものだ。
「お姉さまに会いたいですわ。でも、お姉さまは頑張っておられるのですもの。弱音を吐いてはいられませんわ」
美しい青い瞳を朝日に輝かせ今、姉の面影を空に描く。
幼い妹の心の綱。誰にも取って代わられることのない、至高の存在。ああ、美しきかな。
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